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モロッコはウザくなかった旅行記(5日目)

~放屁はラクダの上で~
(2015年8月7日~2015年8月16日)




5日目(ツアー2日目)。

明け方、部屋の窓を開ける。
 
 
ひんやり。空は雲が多いながらも晴れそうだ(希望的観測)。

だってモロッコの真っ青な空をワタクシはまだ知らない。ただ暑さは知っている。
 
 
いくつかのフォトスポットを通りバスは進む。

ここで車内は緊張事態へと変わる。イギリスの母はアイト・ベン・ハッドゥ以降悪いなりにも体調をなんとか維持していた。

しかし最初っからハイテンションで助手席に陣取り、走行中には窓から半身出す態で動画を撮りまくっていたイギリス男マイケルの病状が深刻なのだ。アイト・ベン・ハッドゥでも元気だったのに、夕食は手を付けられない豹変振り。ルームミラーにはうつろな目で天を仰ぐマイケルが映っている。

ふたりのためにバスは開店したばかりの薬局に立ち寄る。その後はフォトスポットとマイケルの嘔吐の停車が続く。

もうこの朝の時点でマイケルを見たツアー参加者たちは思っていた。あとは(バスを降りる)決断だけだと。

お昼前、トドラ渓谷の山間の民家でミントティーが振舞われ、ジュータン即売会が繰り広げられる。母は薬が効いたようで元気に参加している。母が一枚のジュータンを気に入る。父がそれを買ってあげる。愛である。マイケルはバスである。

ジュータン即売会の後は散歩をしながらトドラ渓谷へ。坂道、あぜ道と汗だくで歩いたにもかかわらず、トドラ渓谷に足を浸すと一瞬で気分がさわやかになった。バスにはずっと最悪の気分の人もいる。
 
 
トドラ渓谷の突き当りに待機していたツアーバスに乗ってレストランへ。

レストランに着くと、誰よりもマイケルが先頭を切って早足で歩き始める。復調か?そう信じたのもつかの間、マイケルはレストランのソファーにぶっ倒れた。横になりたかった一心のスタートダッシュだったのか・・・。

食後、出発前のツアーバスには2つの空席。マイケルとその嫁の席だ。僕たちはみな思ったはずだ。リタイヤは当然だよと。

しかし嫁に抱えられながら登場したマイケル。そうか、この辺鄙なレストランじゃなくて町中で降りたいんだな、ワタクシはそう思った。

しかしその後もなかなか決断しないマイケル。ルームミラーには絶望的なマイケルの表情が映る。もう絶対無理だって。このあたりのホテルで休んで、帰りにこのバスに拾ってもらえばいい。嘔吐ストップが続くたびに僕たちの表情は曇っていく。
 
  

  
そして事件は起きた。バスはエルフード、リッサニを抜けもうすぐメルズーガだというときだった。

もうみんなマイケルが最後まで行くことを疑わなかった。ただラクダには乗れないだろう、そんなことを考えていたときだと思う。ドライバーの横に座っていたマイケルの嫁が叫び声を上げたのだ。




「Fire!!!」


Fire?マイケルが火を噴いたのか?僕たちが唖然とする中、ドライバーがすぐさまペットボトルの水を足元に向ける。足元が火元なのか?

そこで僕たちは気付いたのだ。バスが火を噴いたぞーーー!!!



僕たちは逃げるようにバスを降りる。ドライバーもその中にいる。みんなが遠巻きに見つめるバスには半ケツでぶっ倒れたままのマイケルと、逃げていいのか戸惑うマイケルの嫁が取り残されていた。

バスが爆発するかもしれないのに半ケツで微動だにしないなんて・・・マイケル恐るべし。

その後、失礼ながらマイケルの半ケツで笑いが止まらない僕たちとバスは無事メルズーガに辿り着き、ラクダの上の人になったのでした。

もちろん半ケツマイケル除く。
 
 
日が暮れ始めた19時。メルズーガ大砂丘にてラクダにまたぐ。乗り心地はそう良くはない。

ただ毎週末競馬で授業料をお支払いしているぶん、ジョッキー気取りで一間歩ごとに見事な体重移動を披露し、なかなかいい感じで進む。ラクダに乗るときと降りるときの急な上下運動には緊張感が走るけど、それ以外は楽勝だ。

最初はラクダに装備された取っ手を両手持ちだったのに、すぐに片手持ちになり、内股に力を入れての両手放しまで完璧にこなす。ただカメラを構えても足元がぐらぐらなんで写真は撮りにくい。

できれば横乗りとか正座乗りも挑戦したかったけど、体の柔軟性に問題があって足が攣りそうなので止めておいた。賢明であーる。
 
 
実はワタクシはこの砂漠でステキな写真をバシバシ撮りたかったのだ。

文面が怪しくなっただろ?そうだ出発してから30分もしないうちに天候も怪しくなって、ってか急に悪天候になって砂嵐が吹きまくって写真どころじゃなくなったのだ。もう痛い痛い痛い。感覚的には体中に砂利を全力で投げつけられているような感じ。目も開けられない。こんなとき耳毛がわっさわさだったら砂除けになるのにと考える余裕はある。

こんな砂嵐なのに日常茶飯事なのかベルベル爺さんとラクダは進行を止めない。目を開いても辛うじて得れる視界はラクダ1頭分くらいなんで目を閉じて進行する。研ぎ澄まされた耳に届くのはラクダが砂漠に足を踏み込む音だけ、と言いたいのに砂嵐音のみ。どんな日だ?こんな日だ!!!

そして砂嵐が弱まった頃、日暮れを迎えたキャンプ地が見え始める。ラクダに装着していたビーサンはどこかに飛ばされてしまっていた。砂嵐のいたずらってやつか。

しかしキャンプ地に着いてラクダを降りようとするとそこはラクダの糞パラダイス。ビーサン飛ばされちゃたんですけど・・・(涙)
 
 
デザートキャンプに到着すると、各グループにテントが割り当てられる。照明付き、お布団有り。ここに荷物を置いて砂を感じる。

砂嵐は収まるも空には覆い尽くす雲。ベルベル爺さんによるチキンタジンを食す頃、雲間からひとつの星が輝き出し、次第に広がる星々。いつしか満天の星、堂々と鎮座する天の川。星の近さは感じないまでもその数の多さ、おまけに流れ星の目撃情報に目のやり場に迷う。それでも3つは見た。願い事なんてしない。流れ星の軌道をただ追っかけるのみ。

本当は星の下で眠りたかった。旅のきっかけになった本の通り若いベルベル人に膝枕されて涙したかった。しかしベルベル兄さんはいない。爺さんのみだ。

しかも、やっぱり風は吹き止まず熱気の残るテントで就寝。風が砂を運ぶ静寂音だけが響く、はずがテントに砂がぶち当たる音をBGMに眠る。
 


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番外:モロッコの撮り鉄事情